interview

おおひなたごう

ギャグ漫画家、おおひなたごう。そのエキセントリックで無限回廊的奥行きのある作風は、デビューから18年経つ今も他の追随を一切許さない。
そんな彼が昨年、ある“課外活動”を始めた。阿佐ヶ谷ロフトAで1年に1回ペースで行われているイベント「ギャグ漫画家大喜利バトル!!」である。彼はこのイベントを通じ、何を目論むのか。連載の締め切りは大丈夫なのか。そして彼の漫画家としてのアティテュードは──。そんなあれやこれやを取り留めなく訊き出すべく、第二回バトル開催が間近に迫った2009年某月某日、我々取材班は都内某所にある彼の仕事場へと向かった……。

(インタビュー/さのまきりえ テキスト・撮影/前川誠)

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●何をやるにも中途半端にできないんです

──「ギャグ漫画家大喜利バトル!!」がスタートした経緯は?

 もともと「阿佐ヶ谷ロフトAで何かやりませんか?」っていうオファーをもらっていたんですけど、ちょうどそのときダイナマイト関西に出演することが決まったので、練習がてらいっちょやってみるかと。

──結構軽いノリで。

 そうですね。でも、やるからにはちゃんとエンターテインメントとして成立したものをやりたかったし……。何をやるにも中途半端にできない性格なんですよね。だからイベント前にはダイナマイト関西を徹底的に研究したし、演出面から細かく組み立てました。
 行き当たりばったりでグダグダになるのが、どうも性に合わないんですよ。キチッと作り込むのが好き。何なら終わった後の打ち上げの場所まで、前もって決めておきたいですから(笑)。

──サービス精神が強いんですね。

 それもあるかもしれないけど、まあ、小心者なんでしょうね。ちゃんとやっておかないと不安でしょうがない。しっかり準備しておかないと、何事も成立させられる自信が無いんですよ。でも逆に、お客さんはあそこまで作り込まれたものを予想してなかったと思うから、そこで意表を突けて良かったかもしれないですね。

──去年はその後ダイナマイト関西にも出演されて、その合間に漫画も描いていたんですよね?

 もちろん。忙し過ぎて、どうやって日々を過ごしていたかすっかり覚えてないです(笑)。ただ、それで本職である漫画がズルズルになるのはイヤだから、今回は連載(『犬のジュース屋さんZ』)を3週分先にあげておいて、万全の体制で臨みますよ。

──ちなみに、大喜利は普段漫画を描くのとは別の技能が必要とされるじゃないですか。

 そうですね、その場の雰囲気を掴むのが大事だったりとか。

──でも、敢えて共通点を挙げるとしたらどんなところだと思いますか?

 ギャグの作り方というか、“ズラし方”に関しては、普段ネームを作るときと同じように感じましたね。やっぱりその“ズラし方”が間違っているとウケない。もちろん、大喜利の場合は複数回答だからコッチが受けなければコッチなんて修正ができるけど、普段の漫画は一発勝負、というところは違いますが。
 ただ、AのモノをBのところにズラすよりは、まったく関係ないCのところにズラす方が面白いのかな、っていうのは実感としてありましたね。みんなが思い描くようなことを回答してもウケないから、みんなBを知っているという前提でCのところにズラすっていうやり方は、普段の描き方と似てました。

──ただ大喜利だと、ある程度分かり易くないとダメですよね。
 そうですね。普段描いてるような、しばらく経ってから解るようなネタが通用しないんですよ。

●もっといろんなことをやっておくべきだった

──ネタと言えば最近、おおひなたさんの漫画に「言葉」のネタが増えているような気がするんですが、それはやはりお子さんが産まれたことと関係あるんでしょうか?

 関係あるかなあ? でも、確かに子育てしてると原点に帰りますよね。「俺もこんなことやってたよなあ」とか「こんなの好きだったなあ」とか思い出す。
 まあ大概僕のネタって、小中学校のときに身につけたコトが元になってますからね。

──ファミレスネタとか?

 あれは、いつもファミレスでネタ考えてるから出てきたやつですね(笑)。漫画家をやってるとね、行動範囲が半径2駅くらいになっちゃうんですよ。

──おおひなたさんは以前からバンドやタップダンスなど、漫画家以外の課外活動をやられていましたよね。そこには、自分の行動半径を拡げるためっていう動機もあったりするんですか?

 あります。結構、無理してますね(笑)。「やらなきゃ」っていう強迫観念というか、そういうことをしていないと本当に世界が狭くなっちゃうので。だって、何もしないと家族と担当とアシスタントとしか話さないですからね。僕、基本的にどこにも出かけなくて良いと思っているタイプだし、ドラクエとか与えられたらサルのようにそれだけをやり続けてしまうんですよ。
 でも1年に1回でも大喜利みたいなことをやっていれば、少なくとも外には出るし、いろんな人と話をする機会は増えるじゃないですか。

──情報収集のためにも必要ですよね。

 自分が面白いと思っていても他人から見たらそうでもないことって、いっぱいあるじゃないですか。独りでやってるとそのモノサシが無くなっちゃうから、他人と話すのはすごく大事なんです。

──通常、連載を抱えた漫画家さんは世界が狭くなっていくものですか?

 忙しいとね、自然とそうなりますよ。だから若いうちにデビューしてずっと長い間連載をやっている人って、社会経験ゼロじゃないですか。どうやって毎回ネタを出せてるんだろうなあ、って僕なんかは不思議に思いますね。もしかしたら、そういう人を天才と言うのかもしれませんけど。
 僕も30歳を過ぎてから、もっといろんなことしておけば良かったって後悔しましたからね。26歳まで飲食店を中心にバイトしていて、単行本が出てから漫画一本になったんですけど、そのバイトもいろんなことをやっておけば良かったなって。

──自分が描くのはギャグだと決めたのはいつでしたか?

 決めたというより、自然とそうなりました。気付いたらギャグしか描いてなかったんです。

──もともとクラスの人気者タイプだったんですか?

 あはは。まあでも漫画が描けるとみんな集まってきますよね。

──独りで描き続けるタイプもいますが。

 僕はね、描いたら自作の単行本にしてみんなに配ったりするタイプだったんですよ。みんなに見せるのは幼稚園くらいからしていたし、そのうち単行本を作ったり、友達と一緒に雑誌を作ったりしていたから、基本的に他人に見せるために描いていたんです。
 確かに高校くらいになると、少人数でコソコソ漫画描いてる女子はいました。でも僕はみんなに見られてなんぼだと思っていたし、そうやっていると隣のクラスまで単行本が行ったりするんですよ。ある日知らないヤツが来て「コレお前が描いたのか! すげえ面白かったよ!」って握手を求めてきたり(笑)。ソイツとはその後、2人で合作したりしました。

──『まんが道』みたいな展開ですね。

 ちょうどその頃NHKで『まんが道』のドラマが始まったんですよ。それが僕たち2人を後押しして「やろうぜ!」ってことになり。……まあ結局止めちゃいましたけど、彼とは今でも親友ですね。

●ギャグ漫画界の活性化を!!

──以前やられていたバンドは、漫画とはまったく別物ですか?

 別物ですが、楽しませたいっていう思いは一緒かも。バンドをやるときも演出を考えたりとか、どうやったら笑わせられるかなとか(笑)。曲よりもそっちを重視したところもありました。

──やはりおおひなたさんにとっての「楽しませる」は「笑い」なんですね。

 そうですね。

──例えば漫画でも「泣かせたい」って思ったことはありませんか?

 う〜ん、泣かせるためにはもっと深い人生経験が必要だと思うんですよね。よく「笑わせる方が難しい」とか言いますけど、僕はずっとそれしかやってこなかったから泣かせる方が難しい。泣かせようとしたら、きっと途中で照れちゃうんですよ。今だって漫画でちょっと泣かせるようなシーンを描こうと思っても、ついかっこつけて描いてしまったりとか。きっと、そこで曝け出せるようにならないと泣かせるようなものは描けないと思う。

──では、興味がない訳ではない?

 うん、興味はありますね。漫画だって真面目なモノとか泣かせるモノとか、いろんなタイプのモノを描いてみたいとは思います。ただ、あまり背伸びしてもしょうがないと思うので、今はここで。
 泣かせるようなモノって、50歳くらいになってからやっても良い気がするんですよ。でもギャグは、50歳になったらだんだん厳しくなってくると思う。だから60歳くらいになったらギャグ漫画を引退して、小説を書いても良いのかな、とか……。まあとりあえずは、笑わせられるうちは笑わせられるモノでいこうと思います。

──小説にも興味あるんですか?

 はい。絵を描くのしんどいんで(笑)。だから僕が原作で、他の人に絵を描いてもらうっていうのでも良いですよ。

──ということは今の“ギャグ漫画家”という肩書きにもこだわってない?

 いえ、やっている以上はこだわってますよ。今僕はコレしかできないし、この道を極めたいと思ってやってます。ただ、10年20年後も同じことを続けられているかは、判らない。もしできなくなったら、小説書いたりすれば良いかなって。と言っても別に小説をなめてる訳じゃなくて、絵を描くのって体力的にしんどいんですよ。

──“漫画原作者”っていう肩書きも今はメジャーになりつつありますよね。

 自分の描ける絵って限界があるんですよ。だからそうじゃない人というか、単純に違う絵で自分のネタを観てみたい気はしますね。

──それこそ大喜利出演者とのコラボとか?

 ギャグ漫画家同士というよりは、全く別のタイプの人と一緒にやってみたいですね。画家とか。

──そういったコラボレーションはお好きですか?

 実はそうでもないです。人と何かを一緒にやるのって、余り好きじゃない。誰かと一緒になることで新たな何かが産まれれば良いけど、相手に合わせ始めるとつまらないモノができあがるじゃないですか。なかなかそれが難しくて、長くやっていると結局お互い譲り合い始めるんですよね。それがどうしても許せなくて、それなら自分の世界を100%再現できる漫画家をやっている方が良いなって思っちゃう。
 ほんと、映画監督とかってスゴイと思いますよ。だって映画って「こういうのが作りたい」と思っても、いろんな意見や規制が入ってくるじゃないですか、多分。だからね、よくインタビューで「映画の撮影現場はどうでした?」って訊かれた俳優とかが「和気あいあいとして楽しかったです!」って答えるじゃないですか。僕は、そんなヌルイ現場で本当に良いのかなって思っちゃう。もっと厳しくて、ピリピリしたところからこそ良いモノが産まれるハズなんですよ。

──なるほど。ちなみにおおひなたさんって、締め切り前に「(ネタを)考えるの止めたい」なんて思ったことはあります?

 毎回思いますよ。考えるの止めたらどれだけ楽だろうって。でもね、自分が選んだ道だから、仕方無いですよね。

──でも、もし「止めて良いよ」って言われても止めなそうですよね。

 いや、そんなことないですよ。たまにね、創作意欲がすごくある人っているじゃないですか。こんなにスゴイ作品を描いて大ヒットさせたのに、まだ新作描くんだ! っていう人。僕、そういうの無いですからね。今だって基本的にはドラクエやりたくって仕方無いですから(笑)。

──あはは。では最後に伺いたいんですが、おおひなたさんにとっての「ギャグ漫画家大喜利バトル!!」とは?

 かなり重要な位置を占めてますね。もちろんみんなの協力があってこそなんですが、ライフワークにしていきたいです。うすた京介くんが「大喜利があると身が引き締まる気がする」って言ってくれたんですよ。漫画ばっかり描いてるとどうしても息切れがしちゃって、気が緩んでしまうじゃないですか。でも大喜利があることで緊張して、「やらなきゃな」って気になるって。僕もそれと同じで、これをやり続けるためにも漫画をしっかり描き続けなくちゃいけないと思えるんです。漫画も大喜利も、バランス良くしっかりやりたいです。

──是非、どちらもずっと続けてください!

 「ギャグ漫画家大喜利バトル!!」の隠れテーマは、ギャグ漫画界の活性化なんですよ。「これに出たくてギャグ漫画家になりました!」っていう人が出てきたら成功かなって。少なくともそうなるまでは続けたいですね。

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『犬のジュース屋さんZ』
週刊ヤングジャンプにて連載中!

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