interview

浦沢直樹

80年代から現在まで、漫画シーンの最前線でヒット作を生み出し続けている浦沢直樹
待望の新連載『BILLY BAT』を開始すると共になんと初の音楽アルバムまで発表するという
とどまるところを知らない彼の才能はどこへ向かおうとしているのか
今回は浦沢直樹と、アルバム『半世紀の男』のプロデューサー和久井光司に話を聞いた

(インタビュー/北村ヂン・撮影/吉澤士郎)

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●ものを作り出すのって結局自分自身の掘り下げだからね

――浦沢先生が最初に影響を受けたのは、漫画と音楽どっちだったんですか。

浦沢 う〜ん、どっちなんだろう。母親が言うには3歳の頃から『ウエスト・サイド物語』の曲を鼻歌で歌ってたらしいですけど。伊福部昭さんの『ゴジラ』や『地球防衛軍』のテーマも好きでしたね。漫画は、4〜5歳の頃に手塚治虫先生の本を買ってもらってずっと同じのを読んでました。

――映画音楽っていうのは、ストーリーが好きで曲にも興味を持つという感じなんですか。

浦沢 僕ね、漫画もそうなんですけど、ストーリーってあんまり関係なくって、音やビジュアルの方に興味があったんですよ。だから歌を好きになっても歌詞の意味にはあまり興味がない。漫画も「あのストーリーのあのセリフが……」っていう感じじゃなくて、ビジュアル優先で、絵とか描線の方にときめいていましたね。

――自分でやるようになったのはどっちが先なんですか。

浦沢 それは圧倒的に漫画の方が先で、小学校2年の時にはもう大学ノートにコマ割した漫画を描いてましたからね。子供ながらちゃんと演出していたんですよ。まあストーリーって程のものじゃないけど。雰囲気ですね。突然「兄さんがいなくなったからいけないんだ! この雨がいけないんだ!」とか叫んで外に飛び出して自殺する青年の話とか。インパクトのあるシーンばっかりを描いているという……全部がサビなんですよね(笑)。

――作ったものって人に見せていましたか。

浦沢 見せなかったですね、黙々と家で描いていました。よっぽど分かってるヤツとしか共有したくないんですよ。たとえば、みんなで雑誌を作ろうって集まるとして、志を同じくする人同士だったらいいんだけど、それが外に広がることによって素人が関わってくる感じ、アレが嫌いなんだよね。全然分かってないくせに「俺にも描かせろよ」とか言ってくるヤツがいるんだけど、「お前、素人じゃん!」って(笑)。実際やってみると案の定そいつで止まるの。「だったら全部ひとりでやる!」ってなっちゃうんですよね。

――自分の納得出来るものが作れれば他の人に見せなくてもいいと。

浦沢 ものを作り出すのって結局、自分自身の掘り下げだからね。

――一方、楽器をやりはじめたきっかけはなんだったんでしょうか。

浦沢 小学6年から中1くらいにかけて、GSブームが終わってアンダーグラウンドっぽいものがじんわり出てきたんですよ。そんな中で吉田拓郎という人が出現して、「僕もギターを持とう!」みたいな。当時はそういう人が多かったですね。
 ギターも漫画と同じで、他の人と一緒にやる感じではなく、ひとりで『ヤングギター』とか読んで、誰に相談するでもなくギターを買いに行って、間違ってクラシックギターを買っちゃったりしてね(笑)。そんなことをやっていました。

●若者は「大量消費だ」とか言って投げ捨てないで欲しい

――その漫画と音楽という2本柱ですが、両方とも仕事にしようと思ってなかったらしいですね。

浦沢 そうですね。大学卒業だっていう時も普通に就職活動してましたから。それで、せっかく出版社に面接に行くんだったら、それまで描きためていた原稿を専門家に見てもらうっていうのも手だなって思い「今度、会社訪問しますんでその時に見てください」って。それが賞を取って、それなら一年ぐらい漫画やってみようかなって

――それまでは何のために描いていたんですか。

浦沢 ただ空気を吸うように自然と描き続けていたんですが、自分の描いている漫画が商売になるとは思っていなかったですね。周りのバンド仲間とかには見せていて「何でこんなに上手いのに投稿しないの?」って言われてたんだけど、メジャーな出版社が自分の作品みたいなマイナーなものを評価するなんて思ってもいなかったですよ。やっぱり手塚先生の漫画あたりを基準にしてたんで、あのクオリティが描けるまではデビュー出来ないと思ってましたからね。
 ただ、うるさい批評家である自分自身を納得させられる作品を、大学にいる間に描いておかなきゃいけないとは思っていましたね。

――結局、自分が納得出来るかどうかなんですね。

浦沢 だって自分を超えるほどの批評家って他にいないんだもん。親戚のおじさんとかから「直樹くんは漫画上手いねー」とか言われても「だって漫画知らないじゃん、おじさん」って思ってましたからね。漫画を知らない人に褒められても嬉しくないじゃないですか。

――一方、バンドでも「プロになりたい」とか思いがちですけど、それもなかったんですか。

浦沢 音楽に関しては、ストリートスライダーズっていうバンドが同じ大学のサークルにいたんですが、彼らが演奏した瞬間にバンッて空気が変わるんですよ。それを見てて、「こういうのが世に出て行くバンドだな」って思ったんですね。漫画でもバンドでも、プロになるものがどうあるべきかっていうことが分かるだけに、自分はちょっと違うのかなって思っていました。

――そして、プロの漫画家としてデビューすることとなるわけですが、創作活動をする上での考え方って変わりましたか。

浦沢 全然変わらない。言っちゃなんですけど、持ち込んだ原稿を見てくれた編集者が僕の作品に対して言ったことは、すでに自分で批評し終わっていたんですよね。「プロの意見を聞いてみても、やっぱり思ってた通りだな」みたいな。何回ネームを持っていっても「何でお前はこんなにマイナーなんだ!」とか言われてたんだけど、「だってマイナーなんだも〜ん」って(笑)。

――そういうところからどうやって抜け出したんでしょうか。

浦沢 新人賞をもらって一年後に、今も一緒にやっている編集者の長崎尚志さん(現在はフリーの漫画プロデューサー)と出会ったんですよ。「変な者同士で組んでみな」って。で、「何かネタ持ってるの?」と言われて、「朝起きたらウルトラマンになってて、3分経ったら死んじゃうっていう話を考えてる」って言ったら「面白いねー!」って(笑)。フランツ・カフカの『変身』のウルトラマン版なんですけど、ひどい話ですよね。これを面白がる人って変だなとは思ったけど、その関係が25年間も続いてますからね。

――価値観を共有出来る人と出会えて、そこからはストレスなくやれるようになったという感じでしょうか。

浦沢 いや、漫画家なんてストレスだらけですよ。漫画の出版されるペースって人間業じゃないですもん。あんなペースで出してたらストレスがないわけがない! 漫画というものは、読者レベルでの感覚と描いている側の感覚があまりにも違うんですよね。こっちは一週間、すべてを捨てて描いてるのに、その先には大量消費者としての読者が待っているという……。
 まあ、漫画が大量消費されるポップカルチャーとして位置づけられるっていうのはいいんですけど、読む側の若者たちまで「大量消費だ」とか言って投げ捨てないで欲しいとは思いますね。やっぱり、そこは宝物にしてもらいたいんですよ。僕らも大事にしてたもん。捨てられて雨に打たれた自分の雑誌とか見ると悲しいですからね。

――そして、マイナーだと言われ続けていた浦沢先生が、『YAWARA!』などのヒットによって一気にメジャーに上がっていくわけですが。

浦沢 僕から言わせると『YAWARA!』って、「売れる作品とはどういう構造なのか」を確認するための作業だったんですよ。だからある意味、漫画で漫画批評をやってたの。でも、それがガチだと思われちゃったんですね。「浦沢っていう人間は『YAWARA!』みたいな売れ線漫画を描くヤツだ」って。
 もちろん僕も人の子なんで、売れて嬉しくないわけじゃないんだけど、そこにおける批評家としての目線は僕の中にもあるから「この漫画は批評漫画なんだ」っていう要素を一生懸命入れていたのに、読者はマジで「感動した」って言ってくるし、批評家は「売れ線漫画を描いてるヤツなんか」って離れていくし……。だから結構大変でしたね。
 『YAWARA!』を描いている一方で『パイナップルARMY』とか『MASTERキートン』みたいな振り幅のあるものを描いていたから、その辺を理解してもらえるかなって思ってたんですけど、別人だと思われてたらしいです(笑)。

――あ、その振り幅は作為的だったんですね。

浦沢 そうですよ。こっちでテレビドラマみたいなことをやって、こっちで映画みたいなことをやって。僕は両方とも好きですから。そういう風に、もっと好きなものの幅ってあるはずなのに、みんな「メジャー」「マイナー」ってレッテルを貼っちゃうんですよ。確かに昔はもっと区別がハッキリしていて、両者は本当に別の所に生息していたんですけどね。それを混ぜたのって、もしかすると僕が最初かもしれない。
 あんなにマイナーなところにいた浦沢直樹という作家が、メジャー誌である『ビッグコミック』でデビューしちゃった。いきなり帝国劇場の舞台にアングラ劇団が立っちゃった、みたいなね。そこで変な化学反応が起きたんですよ。そういうことには当時からわりと自覚的で、僕みたいなのがこういうフィールドに出てきたという偶発的事故を、何か良い方向に持って行けないかなっていうのはずっと考えていました。『20世紀少年』みたいな作品がここまで一般に受け入れられたのも、どれだけ僕が時間をかけて世の中にマイナーなものをなじませていったのかっていうことの結果だと自分では思っています。

――その『20世紀少年』では音楽への愛情っていうのがすごく表現されていますよね。

浦沢 音楽的なものを漫画で表現するって、実はとっても危険なことで、「ロックへの情熱!」みたいなものを描いた段階でロックでなくなってしまう可能性が非常に強いんですよ。それをどうやったら表現出来るのかっていうのをやってみたのが『20世紀少年』ですね。
 あの中で、実はほとんど音楽は表現されていないんです。全然違う方向から表現して、音楽物の漫画じゃないっていう見せ方をした時にはじめてロックっぽくなる可能性があるんじゃないかと思ったんですね。そういう、屈折に屈折を重ねた形でロックが表現されているのが『20世紀少年』なんです。

表現者はその日その日の出来事に影響されなきゃ嘘じゃないですか

――さて、漫画界でも最も忙しい部類に入るであろう浦沢先生ですが、そんな中、ロックのアルバムを制作したという……これはどうして作ろうと思ったんですか。

浦沢 『20世紀少年』が最終回を迎えたタイミングで、しばらく連載が一本だけになるから何か出来るかもっていうのはもともと思っていて。そこに和久井光司さん(今回のアルバムのプロデューサー)との出会いもあり、ずっとやりたかった音楽アルバムの制作というのが実現出来ました。

――「漫画家が何で音楽やってるんだ」などと言われそうな環境で作られるアルバムですが、その辺はどのように納得させようとしたんですか。

浦沢 情報だけで「漫画家が調子こいてCDなんか作ってるぜ」って思われたとしても、聴いた人が「これは名盤だ」っていう風に言ってくれればなんとか立つ瀬があるじゃないですか。だから「歴史的名盤を作る」っていうコンセプトの元に、とにかくその狭き門に向かっていくしかなかったですね。やれることってそれだけでしょ。

和久井 僕は浦沢直樹の漫画はずっと気になっていて、絵とか線、余白みたいなところからロックなマインドをすごく感じていたんです。だから浦沢さんにプロデュースを依頼された時から、漫画で表現しているあのテンションをそのまま音に出来れば、僕らが目標とするようなアルバムになるだろうという自信はありましたね。
 また、浦沢さんはレコーディングでの対応の仕方がすごいんだ。有名なゲスト・ミュージシャンに対しても「そこはこうで、こうして下さい!」とかドンドン指示を出しててね。表現者として優れている人ってジャンルは関係ないんでしょうね。さすがにアシスタント5人使ってるだけはある(笑)。

浦沢 完成型が頭の中にあるのは僕と和久井さんだけだから、それを伝えるしかないですからね。
 漫画のアシスタントによく言うんですけど、白紙を前にした段階で頭の中に完成型がなきゃダメなんですよ。「これを描くために自分の手を動かすぞ」っていう気構えがなければすごい低いところに着地してしまう可能性があるので。頭の中には、とんでもない高いところを想定した完成型がなくちゃいけない。

――今回のアルバムには、「Bob Lennon(20世紀少年の中で主人公ケンヂが歌う曲)」も収録されていますが、あれも漫画を描いている段階で頭の中で音が鳴っていたということでしょうか。

浦沢 あれは、ロボット同士がぶつかり合って新宿の摩天楼が崩壊する予定で漫画を描いていたんだけど、その前の回を描き終えたところで9・11の速報が入ってきて、「これはもう描けないな」ってなってしまった。それで、夜中に犬の散歩しに行ったら、どこからかカレーの匂いがしてきて、すっごい寂しくなって、急に曲のイメージが頭に湧いてきたんですよ。それで、家に帰ってウワーッてスケッチみたいに録音したんですけど、この歌をケンヂに歌わせるという形でなら漫画を描けるかなと思って。
 歌うシーンであったとしても、歌詞を漫画の中に載せるとあるジャンルに限定しちゃうから今まで絶対にやらなかったんです。たとえばパンクっぽい歌詞だったら、パンクロックが嫌いな人はその時点で読んでくれなくなっちゃう。でも今回は追悼だから歌詞もちゃんと書いて、コードも全部入れて。ひたすら追悼しているんだけど、それを『20世紀少年』っていうドラマの中に組み込んで成立させながら、テロに屈しないように描いてやろうって。おかげで『20世紀少年』の続きが描けたんですよ。じゃなかったら、あまりにもドラマが現実世界とリンクし過ぎちゃって描く気がしなくなっちゃってたんです。そこで、やるせない現実世界に対して自分はこれしか出来ないなと思って、あの歌を歌うシーンを描いたんですよ。あれのせいで全然想定しない方向にドラマが動き出しちゃいましたけど。あの歌にドラマが引っ張られちゃったんですよね。
 「9・11が起こっても俺の中ではこうなる予定だったんだもん」って、我関せずでそのまま描き続けるっていうのもひとつのやり方かもしれないけど、何かを表現するということを生業としている人間は、その日その日の出来事に影響されなきゃ嘘じゃないですか。たとえば、ものすごくマズイ定食を食っちゃったとしたら、それが表現に直結しなきゃいけないような気がするのね。

和久井 それこそが『20世紀少年』がロックだと言われる所以だよね。別にケンヂが歌うシーンがあるからロックなわけじゃないから。

――それでは最後に、このアルバムをどのように聴いてもらいたいと思いますか。

浦沢 僕なんかでも往々にしてありますけど、レッテルだとか前情報とか、自分の既成概念で「こんなもんだろ」って思っているものが、実は試してみたら自分の人生を揺るがすようなものだったりするんですよ! それこそ、ものすごい売れているものだから手を出さなかったのに、いざ読んだり聴いたりしてみたら「やっぱり売れてるものはすごいや!」っていうこともあるでしょ。だから既成概念にとらわれないで、とりあえず聴いてもらわないと話がはじまらないんで……。聴けば分かるから!

和久井 名盤であることは間違いないよね。だって名盤であることを目標にして作ったんだから。だから漫画家だから……とかレッテルを貼らないで、人間として判断して欲しいよね。

浦沢 25年間ずっとキャパの大きいところで漫画を描いてきた浦沢という作家らしい、キャパのちょっと大きめなホールの感じが出ているアルバムだと思います!

浦沢直樹ファースト・アルバム
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浦沢直樹
『半世紀の男』

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「Bob Lennon(ケンヂの歌)」のバンド・ヴァージョン初収録。和久井光司 プロデュース。白井良明、 小室 等、 難波弘之 ら豪華ゲスト参加!! !

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